朝起きたら
「お姉ちゃん、今日も出かけた」
というメッセージが届いていた。
古今泉の姉は昨日も出掛けたらしい。
休み明けでも容赦なく出かけるようだ。
そんな頻繁に出かけていて親御さんに何か言われたりしないのだろうか?と疑問に思う。
古今泉は親に話しても解決しないと言っていた。
放置主義、不干渉というやつなのか?
それでいて、古今泉は姉を心配している。
親とは対照的な妹。
古今泉の狂言の可能性もあるのか?
あまり考えたくない内容だ。
その線は無視して考えることにする。
休み明けも毎日出かけているというのは、古今泉の家の人にとっては困ることだろうが、調べるにあたってはちょうどいいかもしらない。
まだ出かけるのであれば、その跡をつければよい。
そして、その行先にいるものの存在を突き止めればいい。
今度出かける時に俺が姉の跡をつけることを提案してみるか。
「学校が終わった後、会えないか?」と誘った。
学校で後をつけるということを相談するのは流石に憚られた。
朝の支度をしていると
「大丈夫だよ」
と返事が来た。
「学校が終わった後、昨日の公園で」
と送信した。
学校が終わった後、校門を出て、俺は公園に向かった。
古今泉との約束の通りだ。
まだ古今泉が来ていなかったので、俺はベンチに座ることにした。
本当に、なんでこんなにも人が来ないのか不思議な公園だ。
他人に聞かれたくない話をする際には助かるが。
だが、この遊ばれない遊具たちは寂しい思いをしているかもしれない。
だからといって、俺が遊ぶ気にもならない。
ブランコも木馬も、俺が乗るには小さすぎる。
そもそもブランコも木馬もこの年齢では遊ばない。
することがないからといって、そんな下らないことを考えていると、ほどなくして古今泉がやってきた。
「ごめん、遅くなった。掃除が長引いた」
「いや、大丈夫だ」
「どれくらい待った?」
「5分くらいか」
実際に何分かはわからないが。
「古今泉のお姉さんのことで直接話したかった」
「うん。私も話したいと思ってたし、ちょうどいい」
「何を話したかったんだ?」
「どうやって調べよう?って話とか」
「次にお姉さんが出かけるときに俺が様子を見ようと思う。どこに行くかとか」
「うん。手伝ってくれると嬉しいな。私1人だと踏み込めなくて」
古今泉は一緒に行くつもりみたいだが、恐らく俺一人で行った方がいいだろう。尾行には慣れてないはずだ。けれど、古今泉は今までも尾行をしてたんだよな?
バレてないってことは、尾行が上手い……のか?
あるいは、実はバレてるとか。
バレたことにより、姉とギクシャクしてるとか。
そして、それを打開するために……。
しかし、それだと俺を巻き込む理由がない。
そもそも尾行をしてない?
この期に及んでやはり古今泉の狂言説が頭にチラつく。
すぐさま頭の中でこの説を廃して、古今泉との会話に戻る。
狂言説を考慮するのはいいが、古今泉の表情や振る舞いからそんな様子は感じ取れない。
本当に考えても無駄だ。
俺が自分を疑ってるとは露ほども思っていないだろう古今泉の顔を見ながら、俺は考える。
相手からの信頼が伝わってくる。
それが嘘であるかどうかは、俺には判別がつかないが、それなのに疑ってしまうことに俺は罪悪感を覚えた。
「俺は出来る限り早くお姉さんのことを調べたい。今日からでも」
「今日から?急だね」
「ああ。こっちの事情で、早めに情報をつかみたいと思って」
「木々村くんの事情?どんな?迷惑だった?」
「いや、そうではなくて。早急に調べる必要が出てきた」
「早急に?え、何で?」
「いや、それは」
ヤバい。思った以上に突っ込んでくる。
俺も黙っておけばいいものを、どんどん話してしまう。
「ごめん。困るんだったら聞かないでおくね」
「……あぁ。そうしてくれると助かる」
なんだこれ……。凪元と同じように気を遣われている。
そんな俺が戸惑っている姿を見た古今泉は、話を切り替える。
「お姉ちゃん、9時から10時くらいの間に出かけるんだ。だから、それより前にこの公園とかで待ち合わせにする?」
「古今泉の家はどこら辺だ?ここから近いのか?
「近いよ」
「どれくらいだ?」
「歩いて10分くらい」
歩いて10分。確かに違い。
「いや待ち合わせなくていい。
古今泉は家の中にいて、お姉さんが出かけるときに教えてくれればいい」
「あー、うん。わかった」
古今泉の表情が少し曇ったような気がする。
いや、これは動揺してるのにそれを隠し、平静さを保とうとしてる顔かもしれない。
やっぱり一緒に尾行する流れを作っておきたいのか?
何かを隠している?
「俺は近くに待機して古今泉からの連絡を待つ」
「私もついて行きたいんだけど」
やっぱり、古今泉自体も参加したいようだ。
だが、さっきも述べた通り、俺一人の方がいいだろう。尾行を2人で行うとか見つかるとしか思えない。
しかも尾行している人物が知り合いだということになると尚更厄介だ。
だから、ここは古今泉の同行を認めるのは悪手だと思う。思うのだが……。
今回に限っては古今泉の意図を探るためにも一緒にしてもいいかもしれない。
「元からそのつもりだった。古今泉がいた方がお姉さんの動きを予想しやすいからな」
思っていたことの真逆のことを述べる。適当に理由も添えれば、俺が逆のことを考えていたとは怪しまれないはずだ。相手が心を読む能力者でもない限り。
能力を使っていたとしても俺にはわかるから、古今泉が今は心を読んではないと確信できるのだが。
ちょっと前に聞いた術式でそういうことができるのだとしたら知らん。術式については俺は詳しくない。今度師匠に聞くしかない。
「古今泉は俺に連絡した後に出よう。それでどうだ?」
「うん、わかった」
了承を得られた。
「今から準備をしてくる。古今泉も怪しまれないように準備をしておいて欲しい。服装は、暗めの色の服に着替えておいて欲しい」
「大丈夫。そのつもりだった!」
古今泉の顔は晴れやかだ。一緒に尾行をすることを了承するのが重要だったのかもしれない。先ほどの曇り具合は消えている。
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