生徒会から出たあと、古今泉は岩石動先輩がお姉ちゃんの彼氏だから会いたくなかったのだと言った。
それはさっきの生徒会室への訪問で何となく察したところだった。
だから古今泉から直接理由を聞けて、推測が正しかったと確定できた。
「結局無駄足だったね。ごめんね。わざわざ時間取らせちゃって」
「いや、無駄じゃない。その例の会長が原因でないというのが分かっただけでも」
白紙からのスタート、という面もあるが、可能性を潰せただけでも調べる上ではかなりの進歩だと俺は思っている。
「お姉さんは真面目だったのかな?生徒会長もやるくらいだし、今日もそんなことする人じゃないはず、と言われていた」
「うん、真面目一辺倒ってわけじゃないけど、そんな変なことをいきなりするってわけじゃなかったかな。遅れてきた反抗期って訳でもないと思うし。案外受験のストレスかもしれないけど、そんな理由で、お姉ちゃんが家から出るとか想像しづらいんだよなぁ」
「他に心当たりは?」
「本当に1番近かったと思ってた人があの人だったから、後は特に学校内ではないかな。私の知らない人ならあり得るけど」
「知らない人?」
「学校外なら、さっきも言ったけど、夜に集まってたりした人とか」
「例の喧嘩が強そうな人」
「そう」
「そっち方面を調べるか」
「木々村くん、怖くないんだね」
「別に怖くはない」
「そうじゃなくて、木々村くん、轟剛力先輩と喧嘩するくらいだし、あまり人とも話してなかったから怖い人かなって思ってたんだけど、優しい人なんだなって」
そういうーー
「やっぱり怖がられていたのか」
「ごめん、落ち込ませるつもりじゃ」
古今泉は慌てて謝罪を入れたが、少し考えて次の言葉を発する。
「でも、そうだね……結構みんなそうなんじゃないかな。普段の立ち振る舞いとか身のこなしも普通の人じゃないし。格闘技とか武道とか何かやってた?」
普通の人じゃない、というのは、凪元にも言われた気がする。そんなに普通じゃないものを曝け出しているのか、俺は。
というより、格闘技か。
師匠に鍛えられたのは、何なのか、名前は分かっていないが、軍上がりの技術だと聞いたことがある。
俺もわからないのだから、格闘技と言っておこう。
「格闘技をやってたかな」
「やっぱり。だからだね」
「やっぱりというのは?」
「うーん、身体、すごい鍛えてるよねって」
「なるほど」
実は高校に入学してからは訓練が十分にできている訳ではないから動きはかなり鈍っていたと思う。
それで、あの轟剛力での戦略の失態だ。やってはいけないことをやってしまったことを師匠にめちゃくちゃに叱られた。ゴールデンウィーク中に師匠に鍛え直すように言われた。轟剛力戦での怪我は凪元のお陰か、治っていたので問題はなかったが、それでもやっぱり身体は鈍りまくりだった。
なので、リハビリも兼ねて戻すように頑張った。
師匠の元で訓練した訳ではなかったが、それでもかなり鍛えさせられた。
その鍛えた甲斐もあってか、古今泉に認められるくらいには戻ったということか。
「そうだ、連絡先交換しよ。お姉ちゃんのこと調べるのに連絡したいし」
「ああ、そうだな」
といって、いつも使っている通信端末を取り出す
「それ何?」
古今泉は俺が取り出したものを見て、物珍しそうに見ている。
「新型のスマホ?」
「ああ、いや、違う」
スマホと言われて俺が出していたのは、師匠や殿子さんへの専用の端末だということに気付いた。普通のスマホとはぱっと見でもわかるくらいに形が違う。
……流石に不注意がすぎるな、と思った。
俺はカバンからスマートホンを取り出す。
「2台持ち……」
「いや、スマホを2台持ってるわけじゃない」
「ふーん。そうなんだ」
そう言って、古今泉の関心はすぐに薄れたようだ。
俺たちは通話アプリで、連絡先を交換した。メッセージも送れる。
殿子さん相手には、このアプリで連絡をしてもいいのではないか?と思わないでもないが、基本的にスマホは、こういう一般用だ。殿子さんや師匠相手には専用の端末で連絡をする。
「よし、また連絡するね。よろしく」
「ああ、よろしく」
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