5月の初め、GWが開けて最初の日。
学校から帰る途中だった俺は、正門を出てすぐ、ある女子生徒に話しかけられた。
「木々村くん。相談があるんだけど」
その女生徒は決死の顔をしていた。見たことない女生徒ではあったが、覚悟の強さは伝わってきた。
「え、何でしょう?」
迫力があった。あまりの圧力にたじろいでしまった。
普通の高校生相手にここまで気圧されたのは初めてかもしれない。
そんなことを師匠に知られたらどんなことを言われるか……。
「女子高生相手に?はぁ……。お前も堕ちたもんだな」
という風に失望の眼差しで俺を遠ざけるかもしれない。
「……女性に対して横柄な態度をとるよりはいいんじゃないか。お前はよくやったよ」
と俺のことを哀れむような……。
こんな風に気を遣われる方が逆に辛い。
「ん?それがどうかしたのか?」
と、何も気にかけていないかのような反応が返ってくるかもしれない。師匠は俺に期待をしていないかもしれないが、「お前ならそんな女子高生相手にたじろぐことぐらいはことするだろ」と思わらているかもしれない。
全ての可能性がありうる。今の状況を師匠に知られたら俺にとっていい展開にはならないだろう。
気持ち的にもこんな不甲斐ない様子を知られたくはない。
いや、しかし、俺がここまで気圧されるなんて、もしかしたら、能力者の出せる雰囲気によるものかもしれない。
俺が轟剛力雷斗の件で学んだことの一つは、俺に近寄ってくる連中は、能力者との関わりがある可能性を考慮しながら動け、ということだ。
能力者相手だとしたら、師匠の対応も先程の想像よりもまだマシなものになるかもしれない。
俺は彼女に対して警戒すべきだ。対能力者の対応をするか?
いや、これは俺の現実逃避だ。俺は今現在、この女子生徒に対して能力の使用を感じていない。
いきなり能力者だと思って対応するのは、早急過ぎる。
女生徒にこんなにも気圧されたことにより、俺は動揺してしまった。
心を落ち着けよう。
ここまで2秒ほどの逡巡ではあったが、女生徒は俺の心の内が慌てふためいていることを知らないまま、話を続ける。
「あまり人に聞かれたくないから、こっちに来て欲しい」
初対面の女生徒はそう言って俺を誘導していく。詳しいことはわからないが、俺はそれについていくことにした。
人目のつかない建物の陰のような場所に着いて、女生徒は周りを確認する。
聞かれて不都合な存在は誰もいないようだった。
彼女は
「いきなりこんなこと言うの、戸惑うかもしれないけど」
と切り出した。
本当に展開がいきなり過ぎた。
というよりも、俺は既に言われる前から戸惑っている。
「ちょっと待ってほしい」
俺は本題に入る前に話を制止してしまった。
「あ、ごめんなさい。ちょっと慌ててて」
彼女はハッとしたあと、恥ずかしそうにうつむいた。
「いや、いいんだ」
俺が戸惑っているのは、慌てて話を振られたことではない。
「ただ、俺は、えっと、あなたの名前を知らない」
「え……」
彼女のさっきまでの必死な形相は消え失せていた。
コメント