22-自分に関する不本意な噂を流れているかと思ったら、単に事実だった(前)

俺は凪元に対して複雑な気持ちを抱いていた。
あいつに助けてもらったのは確かだ。

それは確実に感謝しなければいけない。今度、殿子さんとも挨拶に行く予定だ。
俺が傷を負ったのは、凪元へのいじめ?に介入したからだ。
これに関しては、俺が自分から飛び込んでいったから、まぁ、凪元が原因、というのもおかしいが。それでも凪元に関することで俺が傷を負ったということになる。気持ちとしては、凪元のためにやったことだ。
しかしそのいじめは実は凪元が自分から仕向けていたものだった。
凪元が責められる謂れはないのはわかっているし、俺が自分から勝手に飛び込んだものなので、凪元を責めるのはお門違いなのもわかっているのだが、俺は釈然としない。まだ処理し切れていない。
しかも、俺はその釈然としない気持ちを抱きつつも、凪元にとっては俺は単に仕事を邪魔した空気の読めないお節介野郎だということだ。
お互いがお互いに対して何かを抱えてそうであるはずなのだ。少なくとも俺は抱いたままだ。
実に仲良くできそうにない。

しかし、凪元自身の方は、俺に割と友好的に接してくる。俺の失態を許してくれているというのであれば、それはそれでありがたいことであるのだが、しかし、その裏にどんな思惑があるのかがわからない。
俺に聞いてほしいこともあるようだしな。

そういった凪元に対する疑念により、俺は凪元に対して複雑な感情を抱いていた。

はっきり言ってあいつは底知れない。

今は4月の終わり。俺が轟剛力とやり合ってから数日経ったが、凪元はクラスに溶け込んでいた。
元から溶け込んでいたのだろうか?と思うくらいに溶け込んでいた。俺の記憶では、そこまで目立たない存在で、昼食もクラスの誰とも一緒には食べていなかった。
だったような気がするのだが。
今は他のやつとも挨拶もしているし、授業の合間の休み時間にもクラスメイトと話している。

得意の術式でも使ったのだろうか、というくらいの変わりようだった。
人の認知能力を歪める術式……。師匠に存在するのかどうか、確認してみよう。

昼食の時間になると凪元は俺の元に来るようになった。凪元の方から誘ってくるようになった。
あの時までは俺の方が凪元の方に行っていたのだが。

俺が凪元がいじめられていると思っていた時は凪元の方から会話を振ってくることは少なかったが、轟剛力とやりあってからは、凪元の方から振ってくることが多くなった。というより、ほぼ凪元が振っている。大したことのない話題だが。
「今日、学校来るときに猫を見たよ。かわいかった。写真見る?」
「この学校の体操服動きにくいよね。木々村くんが着てた服、動きやすそうだったね」
「ヤモリとイモリの見分け方って知ってる?」
「最近このゲーム流行ってるらしいよ、ほら」

本当に、大したことのない話題を振ってくる。

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