凪元とどう顔を合わせればいいのだろう。
俺は上から目線で助けるつもりで、実のところ邪魔していたのだ。
それに関しては、師匠は「お前が考えて決めたことの結果だ」「責められることでもない」と擁護に近いことを言ってくれたが。
轟剛力との戦いに関しては最悪だととても叱られたが。
凪元に対して、俺としては気まずい。
これからどう凪元と接するのか?
凪元の出方を窺うしかなかった。
学校に行くと、凪元は普通の対応をしてきた。
特に変わらない、あるいは、以前よりフレンドリーな。
朝挨拶をして、それから一言二言言葉を交わし。
そのまま普通の学校生活。
特別に変わったことはなかったと思うが、俺は釈然としない気持ちを抱いていた。
昼休みには、
「木々村くん、一緒に食べよう」
と凪元の方から誘ってきた。
「あぁ」
俺はそれに乗った。
いつもの流れを再現するか。
そういう流れを作ってくれたことに関しては気が楽だった。
飯を食べ終わり、また凪元がちょっと来てよ、と外に誘ってきた。
廊下に出る。相変わらず人がいない。
「やっぱり噂になってるねー」
凪元が突然切り出した。
「ん、何のことだ?」
「昨日のこと」
昨日?
「俺が倒れて凪元の家に行ったことか」
「いやー、それじゃないけど……」
「木々村くんが轟剛力先輩とやり合って勝ったって話」
「ああ」
それのことか。しかし、俺は勝ってないぞ。お前も知ってるんじゃないのか
「轟剛力先輩が昨日、みんなの前で俺は負けたから、もう変なことすんなよって久利須くんや枡くんとかに言ってたらしくて」
「僕が木々村くんが公園にいるってのも、それで分かったんだよね」
「なるほど」
「木々村くんの顔がやばいことになってるから、信憑性が増したんだよね。轟剛力先輩とやり合ったんだって。それに休まずに学校に来たし、平気な顔してるから」
平気な顔をしていられるのはお前の治療のお陰じゃないか?と思ったが言わないでおく。なんかシャクに触る。
「みんな、木々村くんがやべーやつだって思ってると思うよ」
「もしかしたら、これから腕試しにって、木々村くんのところに色々と人がやってくるかもね」
「それは勘弁してほしいな」
やべーやつだって思うなら、そのまま手を触れないでいてほしいものだ。
俺には俺のやることがあるわけで、単なる厄介ごとを増やして欲しくは無い。
本当に、何事もなかったかのように何のわだかまりもなく話す凪元に、俺は自分の気になっていたことを切り出した。
「お前は俺のことどう思ってるんだ?」
「と言いますと?」
俺の質問に対して凪元は疑問に顔を曇らせる。声も心なしか恐る恐るな感じだった。
何か俺は変な言い方してしまっただろうか。
「俺はお前の仕事を邪魔したようだ。そんなやつ、うっとうしいと思わないのか」
「ああ、そういうこと」
合点、と表情を明るくする。
そんなの単純明快、わかり切ったことじゃない、とでも言いたそうなテンションで
「木々村くんはいいやつだって僕は分かってるからね」
「入学早々、いじめられてるやつをみんなが見逃しているにも関わらず、木々村くんはそれを止めようとしてくれた」
「そんな人のことをうっとうしいと思うはずないじゃない」
と。
それに反論を試みる。
「他のやつが見逃すように仕向けたのはお前じゃないのか」
「ははは、そうだね。確かに」
しかし、そんな反論は反論ではないよ、言わん
「でも、その僕の仕込みを跳ね除けてきたのは木々村くんだから」
「みんな今は木々村くんのこと怖がってるけど、その内わかってくれると思うよ」
そのように締めた。
なるほど凪元の工作を俺しか跳ね除けなかったから、というのは多少は説得力を持たせているかもしれない。
だが、しかし。
凪元の言葉の中で気になった言葉があった。
「俺は怖がられているのか」
「…まぁ、そりゃそうか。轟剛力がお前が言うほどの噂が立ってる危険人物なら、そいつと喧嘩する俺も要注意人物になるはずか」
普通の学校生活は難しいな。
「僕が知ってるほどの危険だって情報は流石にみんな知らないはずだけどね」
「僕の情報収集力の賜物ってやつね」
ふふん、と自画自賛していた。
「ほら、僕の仕事って表向きじゃないから」
「あ、木々村くんの方もそうだよね?」
この話に持ってきたか。流れとしてはちょっと強引な気がする。
俺は自分の任務についてはまだ凪元に教えていない。助けてもらいはしたが、まだ俺から説明する気はなかった。師匠からの許可も得ていない。
「何の話かよくわからないな」
「そっか。まぁ言いたくないならいいよ。僕も無理に聞かない。僕の話は聞いてもらうけど」
「何だ?そっちにも何か言いたいことがあるのか?」
「まぁ、その内ね」
はっきり言え。
含みを持たせるんじゃない。
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