昼休みに威嚇して、宣戦布告してすっきりした。
相手に脅しをかけるために、相手に名前を言うというのは、こちらがお前たちのことを知ってるんだぞ、逃げ場はないということを相手に知らせ、プレッシャーを与えるという、昔師匠がやったことだった。
師匠の場合はその後、相手がこちらに戦いの口実を与えるように仕向けるところまでそろえて計画を練るのだが。
俺はその真似をしたわけだけど、そこまでは当然上手くいかなかった。
師匠の真似をしようとしたら上手くいかなかったことが師匠にバレると恥ずかしかしいので、これは誤魔化して報告することにしたい。
細かく突っ込まれたら、誤魔化しても無駄なのだけど。
授業後。
今日の報告をどうするか、等のことを考えて靴を履き替え、昇降口を出ると人が立ち塞がった。
また何かのトラブルか?と訝しんだ。
目の前にいたのは、昼休みに俺に絡んできた奴とは違った。
金髪に髪を染め、髪を上に上げていて、額が見えるようにしている。制服はボタンを開け、着崩して、いくら普通の高校に疎い俺でも、こいつは真面目なやつではないとわかるほどだった。
「よぉ、木々村良平くんだっけ?ちょっとこっちついてきてよ」
と相手は俺の警戒お構いなしに、当然のように俺の頼み聞いてくれるよね、じゃあ行こうかーと言わんばかりのテンションで、俺に近づいて、肩を組んできた。
随分と馴れ馴れしいやつだな、と思ったのも束の間、後ろに腕を回されてすぐにわかるくらい、こいつの身体つきは鍛えられていることを悟った。
何が目的だ。
「なぁ、君って強いんでしょ?聞いたよ」
聞いたよ、ということは、あいつらの仲間ということか。喧嘩自慢に頼んだというところか。
呆れたな。まだまだ俺に関わって来ようとするとは。
「何の用だ?」
俺は答えの分かりきっている疑問を口にした。
「いやさ、君、昼休みに枡とかに呼び出されたらしいじゃん。その時のことについて、あいつらに聞いてさー。かわいい後輩の敵討ち、みたいなさ。そんな感じ」
「言っておくが、先に手を出したのはあっちだ。敵討ちをされる筋合いはない」
「まぁ、だろうねー。でもあいつらバカだからさ。
どっちが先かなんて関係ないってゆーか。
気に入らなかったら潰す、って感じだから」
ニコニコ顔でとんでもないことを言い出した。道理が効かない相手だった。
「とまぁ、だからさ。あんな奴らでも頼まれたからには、やらない訳にはいかないじゃん」
俺の身体にかけていた腕を解き、正面に対峙する。
めちゃくちゃだが、俺と戦う理由を立てて来ているという訳か。一方的にだけど。
面倒だ。こういう道理が効かない連中は、話し合いは通じない。
こういう形でちょっかいをかけられるとは思ってなかった。
仕方ないか。
適当に言い逃れて争いを避ける選択肢はないだろうし。降りかかった火の粉は振り落とす。
通行の邪魔になりにくいところまで歩いて、構える。通路ではあるので、確実に邪魔にはなるのだが。その間やつは、俺の方に視線を向けていた。
「お、いーね、そんな感じ」
やつは構えた。
ここまでは俺はなるべく大怪我させないように気をつけよう、だとか、そんなことを考えていた。
高校生相手に負けるなんて想像すらしていなかった。
油断しているつもりはなかったが、自覚なしに内心はやつらを見下していたのだろう。
やつが構えたかと思うと、次の瞬間には腹に鈍痛が襲っていた。
そして、吹っ飛ばされていた。
一瞬、何がされたのかわからなかった。
痛みの中、起き上がろうとしている間に自分が何をされたか理解した。
それに、相手からは放たれている能力の匂いがした。
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